二月、三月の不安定な雷雨が過ぎると、島を彩る花の季節が訪れる。東平安名崎に白いテッポウユリが咲き乱れ、整地されたキビ畑に向日葵が明るい色を広げる。赤いグラジオラスが畑の脇にぽつぽつと花を咲かせるのもこの頃。忙しいのを言い訳にしているうちに、花咲く春は過ぎていってしまう。今年は、かろうじて庭の花木の移り変わりが、花の季節を教えてくれた。
小満芒種の雨の頃を境に、折々の花も移り変わっていく。今年はどんな花を見ただろうか。夕暮れに香り立つ夜香木の甘い匂いが、うっすら記憶に残っている。
ある休日に、その黄色の花咲く木に気がついた。この木の花を見るのは、その日が初めてだった。ちいさな綿毛のような花が、緑の葉の影にひかえめに咲いている。ヤギたちをつなぐ木の影で、花が咲くわけでもない、実がつくわけでもない。この木はなぜここに生えているのだろうと不思議だった。
アプリで調べると、柳葉ミモザと出てくる。華やかなイメージのある花が、こんな離島の田舎にも咲くのだなと意外に思った。写真に撮りおさめるべく、カメラのレンズを必死に上へ向けていたら、ヤギの飼い主さんに「何の花か」と不思議がられた。
撮り終えないうちにぽつぽつ雨がおちてくる。写真は二枚ほどしか撮れなかった。梅雨がそこまできているのだった。
※ゲッキツの花。シルクジャスミンとも。香りは強くないけれど、真っ白な花が初夏にまぶしい。
去年は一輪差しの花器を買って、いただいた花など飾っていた。初夏の朝早く、庭の花を一輪摘んで飾るのが夢見ていたことだった。
しかし、いざ買ってみると、空気を飾っているだけの花入れになっている。雨があがったらミモザの花を飾ろうと考えていたのだけれど、気がつくと梅雨もまもなく終わりそうな気配である。
花入れひとつおいてあるだけでも、花木を見る視線もちがって愉しいもの。ふとした折に庭の木槿の花など目に入って、一輪挿しにちょうど良いかもなどと想像するだけでも楽しい。移り変わっていく季節は、通りすぎる車窓の風景のように、心にとめるだけが精いっぱいで遠ざかっていくけれど、折々の季節の色がそこここにあるだけでも幸福なことではないか。
などと、自分をなぐさめている。
※昨年に飾った木槿と蝶豆の組み合わせ。ピントが甘く載せるのは躊躇したのだけれど…