帰郷したら撮りたいと思っていた風景がいくつもある。朝焼けの海もそのひとつだ。
この日は、前の日からすがすがしいほど晴れた空で、天気予報でも明日は晴れ、この日を逃せばしばらく雨になるだろうという、梅雨のあいまの晴天だった。
日の出時刻の一時間前に起きて支度をしていると、もう空が焼けはじめている。この日ねらいをつけていた東平安名崎へと向かう途中で、東の空に浮かぶ弓のような月をみつけた。
もう少し明るくなると、月の影も消えてしまうだろう。岬について車から出ると、目の前には太平洋がひらけ、ひときわ赤くやけた空にははかないほど細い月が輝いている。
はやる気持ちをおさえて、ピントをあわせて露出をはかり、シャッターをおした。やがて空が白みはじめると、朝の光のなかに月のかがやきもうすれて、ついには消えてしまった。
太陽の光をあびてかがやくとき、月は地球をはさんで太陽と向かい合っている。太陽が西にしずむころ、東の空にあがってくるのが満月だ。
それとは逆に、地球から見て太陽と月が同じ方向にあるとき、太陽を背にして月は影を地球に向け、新月となる。その新月にちかづいた細い月は、明け方のころ、太陽より少し早く東の空にのぼってくる。
暁の空にうかぶ細い月は、月齢二十六頃のもので、有明の月とも呼ばれるのだそうだ。東平安名崎といえば日の出くらいの思うことしかなかったけれど、何度か通っているうちに、思わぬ天体のドラマに出会うことができた。
朝焼けにもえる空に、銀色の鋭利な月。太陽と月の美しき競演。